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吉田浩子講師の福島原発事故の調査成果がSciRepに掲載されました。

 福島第一原子力発電所事故後の日本木造家屋におけるγ線低減係数を実態調査により検証


 研究成果概要 

 東北大学大学院薬学研究科ラジオアイソトープ研究教育センターの吉田浩子講師の研究グループは、福島県飯舘村や南相馬市小高区などの避難指示区域で日本木造家屋の低減係数(住家内/住家外空間線量率比)についての実態調査を平成24年度から3年にわたり行なっています。
 事故後の住民の被ばく線量を評価する際に、空間線量率を用いて外部被ばく線量の評価が行われますが、このとき、滞在時間が長い屋内の空間線量は住家外の空間線量に低減係数を乗じて求めるため、正確な被ばく線量の評価には適切な低減係数を用いることが特に重要となります。これまで事故後の年間被ばく線量の推定にあたっては、国際原子力機関が示す、1階および2階建ての木造の家における低減係数0.4(代表的な範囲0.2-0.5)1,2)が用いられてきましたが、これらが日本の木造家屋に適切な値であるかどうかの検証はされてきませんでした。
 本調査では、69軒の住宅で得られた522個の結果から低減係数の頻度分布を取得し、中央値、四分位範囲が0.43 (0.34–0.53) であることを明らかにしました。この中央値は国際原子力機関が示す数値とほぼ同じでしたが、図1に示すように低減係数の頻度分布は係数が大きい方に広がっており、国際原子力機関が示す数値の基となったCEX-59.133)で実験的に得られた木造家屋の低減係数の分布とは大きく異なっていました。国際原子力機関が示す代表的範囲0.2-0.5では全体の66.5%しかカバーしないことから、代表的範囲は0.2-0.7(87.7%)少なくとも0.2-0.6(80.7%)とすべきであると提案しています。このように低減係数が大きくなる原因としては、住家の立地条件とセメン瓦の影響の2つがあることを指摘しています。原発事故により被害を受けた地域では、住家の背面、側面は山や丘の斜面であることが多く、斜面に面している部屋では、放射性物質が付着した落ち葉や汚染された表土が流れ落ちてきた影響を強く受け、表側の部屋に比べると室内の空間線量率が高くなり、低減係数が大きくなります。また、調査を行った住家の屋根は、陶器瓦、トタン屋根、セメン瓦の3種類でしたが、セメン瓦の住家の7軒のうち4軒では屋根の下のどの部屋でも低減係数は0.7〜1.0とほかの種類の屋根より大きな値を示していました。セメン瓦をサンプリングして測定した結果、屋根の下の部屋の空間線量率に影響を与えるレベルの放射性セシウムを含んでいる瓦のあることがわかりました。

  本研究は、事故後に行われた統一的手法による初めてのまとまった住家の実態調査によるものであり、事故後の住民の正確な被ばく線量評価に貢献することが期待されます。

 本研究の成果の一部は、英国の科学雑誌Scientific Reportsに、”Reduction factors for wooden houses due to external γ-radiation based on in situ measurements after the Fukushima nuclear accident”として平成26年12月18日付けでオンライン掲載されました。

  本研究は、環境省原子力災害影響調査等事業(放射線の健康影響に係る研究調査事業、主任研究者:吉田浩子)の助成を受けて行われました。

低減係数の概念図
図1 低減係数の頻度分布。国際原子力機関が示す数値の基となったCEX-59.133)で実験的に得られた木造家屋の低減係数を■で示してあります。

参考文献
1) IAEA, Planning for off-site response to radiation accidents in nuclear facilities.IAEA-TECDOC-225.
2) IAEA, Generic procedures for assessment and response during a radiological emergency. IAEA-TECDOC-1162.
3) Strickler, T. D. & Auxier, J. A. Experimental evaluation of the radiation protection afforded by typical Oak Ridge homes against distributed sources. CEX-59.13.